今回は、油絵のグレーズ技法に焦点を当てて
制作してみたいと思います。
グレーズとは
メディウムで溶いた半透明な絵具を
薄く塗り重ねて描く技法です。
手間はかかりますが
透明感・光沢・耐久力が出るのが利点です。
題材にするのは、御岳山ロックガーデンの風景です。
去年、別の森の絵を描くための取材で登ってきたんですが
そのときに撮った写真などを参考にして描きます。
今回のルール
グレーズ技法の効果をわかりやすくするために
ある程度ルールを決めて、縛りプレイをします。
①ホワイトだけで形を描き起こす
②透明色だけで色をつける
これ以外のことは、やりません。
①と②を繰り返して描き進めていきます。
こうすることで
グレーズの半透明なカラーフィルムが何層も重なることによって
一枚の絵になってゆく様子がよくわかります。
下描き〜ウォッシュ
鉛筆で下描きしています。
(テキトーに見えるようでちゃんと描いてますよ😈)
あまり描き込まなくても大丈夫ですが
形だけは正確に合わせておいた方がいいと思います。
透明色で軽く明暗をつけるように色を塗っていきます。
実際の色は、木々や苔の緑色が多いのですが
この時点ではモノトーンに近い色を乗せておきましょう。
明るい部分は、後から描いてゆくので
先に陰影の暗い色を敷いておくというイメージですね。
ポイントは、ベタ塗りするのではなく
わざと粗めに描いて、塗りムラを作ることです。
ムラが多ければ多いほど、色の数が増えるので
より高精細に、リアルな見え方に近づいていきます。
ホワイトで描き起こす
次にホワイトで形を描き起こしましょう。
明るい部分の形を出してゆく感じです。
やはりここでも粗めの筆使いで、ムラを作るように絵具を乗せています。
モチーフが「多い&細かい」と、描くのが大変ですが
「多すぎる&細かすぎる」は、逆に簡単になります。
なぜなら、量が多すぎるがゆえに
モチーフの位置や形が少し違っていようとも
大した問題にならないからです。
特に、水の形や木の葉の位置は不規則なので
ランダムに描いても、不自然には見えません。
ちなみに、このモノクロで先に下絵を描いておいて
後から色をつける描き方を、グリザイユ技法とか言いますね。
グレーズで色をつける
モノクロの下絵が乾燥したら
いよいよグレーズで色をつけていきましょう。
透明絵具を速乾メディウムで溶いているのですが
まだまだ序盤なので、揮発性油を多めに混ぜています。
画面に透明な緑を薄く塗って色をつけていきます。
「染める」という感覚です。
このときすべて同じ緑にするのではなく
混色の割合を変えて、色味を変えるといい感じになります。
この絵は、ものすごい速い速乾メディウムで描いているので
透明層が10分くらいで乾燥してますね😅
グレーズを使うときは、何日も待つのではなく
速乾でどんどん重ねてしまうのがいいと思います。
細密描写をする
グレーズが乾いたら、再びホワイトで描き起こしてゆくのですが
もうここからは細密描写でいいです。
下描き、中描き、細部の描き込み・・・
と、徐々に描き進めてゆくよりは
早い段階で描き込んでしまったほうが
完成形が見えやすいので、制作を楽に進められます。
極細の筆でどんどん描いていきましょう。
地面から生えている植物や
細かい石などを描き起こしています。
こういうものを描くと地面が見えてきますね。
水とその周辺。
沢が岩の合間をぬって流れています。
白絵具だけで描き起こしていると
どうしても質感が単調になりがちという弱点もあるんですが
(ちなみにテンペラメディウムで描くと、独特の質感になったりします)
こんな風に
ホワイトと透明色を繰り返し重ねて
完成まで持っていきましょう。
繰り返せば、繰り返すだけ細かく描けるので
どこで完成にするかは人それぞれですが
美しい森になるまで描こうかなと思います。
硬めのグレーズをする
ホワイトが乾燥したら
また、グレーズで色をつけていきます。
ここで、背景の葉に色をつけるのですが
流動的に塗るのではなく、硬めの絵具を乗せたいと思います。
透明絵具にリクインのオレオパストを混ぜて
絵具の硬さを保ったまま速乾にしています。
豚毛の筆の先に硬いままの絵具をつけて
ポンポン叩くように画面に着けていきます。
これで、遠くの細かい葉の陰のような感じになりました。
手前にある葉や苔や石にも色をつけます。
こちらは普通に絵具を溶いて
水彩画のように薄く塗っています。
単に色を塗るだけではなく
透明絵具の乗せ方にもいろいろあるんですね。
こんな感じになりました。
だんだん固有の色がはっきりしてきた印象です。
さらにホワイトで細かく描き起こす
そろそろ終盤に入ってきました。
もう少し細かく白で描いてみましょう。
この描き方の最大の欠点は
緩やかなトーンを出しづらいことです。
ホワイトだけで描くので、どうしても
微妙な色の差を出すのに点描やハッチングを使うことになります。
(またはスカンブリングなど)
岩の緩やかな形状や
表面に張り付いている苔の模様などを描くには
あまり効率のよくない描き方だと思います。
(自分で描いていて大変でした)
木の幹の周り(葉っぱなど)を
描くことによって、木の幹を描く。
浮き彫り(?)のような感じでしょうか。
グレーズ技法のデモと言いつつ
細密描写のデモでもあるような気もします🙂
かなり出来てきました。
実際に歩いたときの山の雰囲気が出ています。
ロケに行った日は雨で沢が増水していて
すごい勢いで水が流れていたんですよ。
苔も濡れていて、湿気が多く、涼しい感じです。
この描き方は、序盤がいちばん簡単で
終盤にいくにつれて大変になっていきますね。
最終的な描き込み
ここまでくると、あとは細部というか
気になるところを修正してゆく感じです。
終盤といえども、やることは今までと同じで
グレーズとホワイトの描き起こしを繰り返していきましょう。
グレーズしたところ、分かりますか?
染めた部分と、染めていない部分の境目です。
こんな感じで色のついたフィルムが
重なるような形になります。
ただ、この場面でこの塗り方はあまりよくないですね。
終盤なので、もっと細かくモチーフごとに
塗り分けるべきでした。
こんな感じで、ちょっと
全体的に黄色っぽくなってしまいましたが・・・
あまり気にせず
またホワイトで描いていきます。
水辺です。
ホワイトだけで描いているので
微妙な色の変化や、なめらかなトーンを描くのが難しいです。
石や木の葉を描いたり
グレーズで青味と赤味を足すことによって
固有色がわかりやすくなってきました。
今さらですが
ホントに細かくて大変だな〜と思いますね。
遠くの方の葉っぱをどう描けばいいのか悩んでいましたが
結局、豚毛の筆にホワイトの絵具をつけて
画面にちょんちょんと叩いてつけることにしました。
けっこういい感じですね。
最後にグレーズで色を重ねて
ひとまず今回は、完成にしたいと思います。
完成
涼しそうですね。
透明な色を何層も重ねて描いただけあって
とても透明感があります。
(写真だと伝わりづらいかもしれませんが)
色の粒子が立っているというか
不透明な絵具だけでは表現できない
独特な画面になっています。
ただやはり、グラデーションを出しづらくて
最終的にどうしても細かい点描ばかりになってしまうのが
この描き方の難点だと思います。
今回は「透明色とホワイトだけで描く」
というルールでやったので、こんな感じですが
ふつうに他の絵具も併用すれば
もっと簡単に、上手く描けると思います。
自分としては、雨で沢が増水して
水が溢れている感じが出せたのでよかったかな、という感じです。
まとめ
- 透明感が出て、色に深みのある画面になる
- 凸凹しているものは描きやすく、なめらかなものは描きづらい
- 透明な層を重ねることで絵になる
- 絵具の乗せ方によってムラを作ると高精細に見える
- 制作に時間がかかることが多い
それでは
最後まで読んでいただきありがとうございました。